Vol.20 Streets of New York

誰しもが1年で最も美しいこの季節を心待ちにしていました。

うららかな陽光や花々が春を告げると同時に、私たちの暮らしはまったく想像もしなかったものに。

VASICがアトリエを構えるニューヨークは今、アメリカにおけるコロナウイルス感染のエピセンター(震源地)となっています。普段はニューヨークの素敵な面をお伝えする場でもあるのですが、今回はニューヨークブランドとしてこの地の様子を少しお伝えできればと思います。

今、外を歩いて見えてくるのは、未だかつて見たことのないニューヨークの様相です。我が目を疑う、という感覚。眠らない街と呼ばれたそこにネオンや喧騒は一切なく、ひっそりと静寂に包まれています。スーパーや薬局以外のビジネスはほとんどシャッターが降りていて、人も車もまばら。外出時はマスク着用と1.8メートルのソーシャルディスタンスが義務付けられているため、行き交う人々は他者とのコンタクトを避けようとうつむきがちに歩きます。

日本では1月から騒がれていたこの新型コロナウイルス(COVID-19)ですが、実際にこうしてニューヨーカーの暮らしに変化が訪れたのは3月も半ばになってのこと。先立ってインフルエンザが全米で流行していたことから、いざウイルスが街を脅かし始めたときにはすでに除菌ジェル・シートといった商品が薬局では品薄状態。対岸の火事だったはずの見えない敵の侵攻に備えて過剰な買い物に走る“panic buy”も多々見受けられました。

We Must Stay at Home

学校や文化・商業施設、デリバリーを除く飲食店がクローズし、外出制限が開始されてから1ヶ月以上が経ちました。買い出しや散歩や運動を目的とした外出はできますが、基本は「家にいること」。それは、ウイルス感染拡大を抑え込むために市民ができる唯一の解決策であり、第一線で献身を続ける医療関係者やエッセンシャルワーカーたちへのリスペクトにも繋がります。彼らがリスクを冒しながらも頑張ってくれているなか、外出制限が苦痛だなんてとても言えません。夜7時になると窓やバルコニーから医療従事者やエッセンシャルワーカーたちに拍手で称賛を送るのが習慣になっていますが、外に向けてギターやサックスで演奏を披露する人もいてミニコンサート状態なことも。ほんの5分ほどですが、不安を忘れて人々の思いやりに浸ることができる瞬間です。

さて、ニューヨーカーはどうやって過ごしているのか?

マスク&手袋が必須の買い出しは週1程度に控えつつ、必要なものはオンラインショッピングを駆使してデリバリーに切り替えるなど、外出を減らす方法は実は簡単。ただ、仕事を別にすれば、趣味・娯楽など何を拠り所に生きるかに頭をひねります。Zoom上でのオンラインミーティングを活用して人と繋がったり、マスクを自作して医療機関に送ったり。ひたすらNetflix やHuluでTVや映画を“binge-watching(イッキ観)”したり、ミュージアムやオペラの無料ストリーミングを楽しんだり。あとは、家でのベーキングにはまる人も続出中。パン用強力粉やドライイーストがどこのスーパーでも欠品するほど、パン作りが一躍人気のアクティビティになっています。

飲食業界をはじめ、文化・芸術、美容、観光とニューヨークを支えるあらゆるビジネスが打撃を受け、失業手当に申し込みが殺到しているのも事実。誰もが先の見えない不安を抱えています。それでも、地域コミュニティのスモールビジネスをサポートしようとクラウドファンディングが組まれ、困っている人に無料の食事を提供する店があり、生き馬の目を抜く過酷な街でありながらニューヨークにはいつだって他者に手を差し伸べる良心があります。

VASICはバッグを通じてファッションの楽しさを提供するブランドですが、その根幹には「今を生きる女性たちの日々に寄り添う」という願いがあります。日本中、世界中で人々は今、ウイルスの蔓延を少しでも食い止めようと努めています。ブランドの屋号はありますが、私たちも人として同じ思いでいます。

少しでも心に晴れ間が見えたとき、皆様が戻ってきたくなる場所でありたい。VASICは皆様の健康と安全を祈っています。

皆で一緒に頑張ろう。